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文: Mai Kuno 編:Miku Jimbo
「自分を愛すること」の大切さが広まる今、SNS上のコミュニティに自身の居場所を見つける人は多い。どんなに遠くにいる人でも、インターネットさえあれば繋がることができる時代。リアルな場所では出会うことができないけれど、価値観の合う人がどこかに存在するという事実は、孤独を救ってくれるし、自分を肯定してくれる。誰もが少しずつ違う歪な形をしているからこそ、無数のコミュニティが形成されていく。
音楽はそのツールであり、楽曲やアーティストに“心惹かれる”という共通点はコミュニティを形成する要因となる。北海道出身のシンガーソングライター・moekiはそうして出来上がったひとつのコミュニティの中心にいて、2023年11月15日にリリースされるデジタルEP『Between us』はその入口的な作品だ。
moekiは2018年からTikTokやInstagramにJustin Bieber(ジャスティン・ビーバー)、Taylor Swift(テイラー・スウィフト)、Sam Smith(サム・スミス)といった洋楽ヒットソングのカバーやオリジナル楽曲の投稿を始めた。発信地は彼女のベッドルーム。時には北海道の自然を感じさせる屋外や車中。彼女のスモーキーな歌声は、画面越しにリスナーのベッドルームで静かに響いていった。
2018年は彼女が敬愛するBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)を筆頭に、“ベッドルーム・ポップ”という言葉に注目が集まった時代だ。そして、サブスクの拡大により新旧問わず無数の楽曲に触れられることで、ジャンルの壁もどんどん溶け合った。ポップをベースにしながらも、R&BやHIPHOPからの影響を感じられるmoekiの楽曲は、当時から現代までの音楽シーンを素直に吸収した結果だろう。そう感じさせるほどに、軽やかにリズムを乗りこなす。
2021年『Crazzyy』で本格的なデビューを果たしたmoekiは、ハイペースに楽曲のリリースを続けた。そして、今回リリースされるEP『Between us』は、「人と人との間に生まれる、様々な愛の形を肯定するようなテーマで作成した」という。
それはつまり、彼女のベッドルームではないか。
ベッドルームとは飾らない、本当の自分でいられる場所。だからこそ、《おまけに性別だって似ているし》という歌詞が印象に残るガールズラブを歌った「マイガール」など、本音を曝け出した楽曲が生まれてくる。大きな声ではいえないけど、どこかに吐き出したい本当の気持ち。そこに共感し、肯定されたと感じる人は少なくない。
サウンドに関しても、ローファイでシンプルな音数はベッドルームのチルな雰囲気を再現していて、ギリギリ突き抜けないサウンドの緩急もベッドルームのテンションとしてリアルだと感じた。ドロップでエキサイトしては、寝られなくなってしまうから。
さらに楽曲を彩る音色、サンプリング音、ギターフレーズ、遊び心のある歌詞の乗せ方、それらはmoekiの弾き語り動画の背景に映る世界観とリンクする。『トイ・ストーリー』グッズ、ゴッホや『タイタニック』のポスター、ジブリのイラスト、はらぺこあおむし、自作の地球のイラスト。あくまで全体はポップでキャッチー、ファンタジックな瞬間もあるけど、絶妙にリアルでクセがある。それらをひとつの言葉に集約して言語化することはできないが、彼女は音化することで、リスナーの感性を肯定することができるのだ。
まだ言語化されていない共感はたくさんある。しかし、感覚を音化して発信できる彼女なら、あのアーティストたちのようにベッドルームから広い世界の端っこまで繋がっていくことができるはずだ。好きなものは変わったり、増えたりするし、ベッドルームの模様替えをしたくなることだってあるだろう。でもそれでいい。これからもありのままに彼女が感じているものを見せてほしい。
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
<moeki 1st solo live「Between us」>
2023年12月23日(土)at 北海道・札幌musica hall cafe
開場18:30/開演 19:00
前売2,500円(+1Drink)/当日3,000円(+1Drink)外部リンク
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